鳩の帰巣本能を利用した通信方法の歴史
ハトは渡り鳥のように季節によって住みかを移動しない「留鳥」に分類されます。
1年中ずっと同じ街に住みます。
最も有力な説では、地球の磁気や太陽の位置、自分の目や耳・鼻を頼りにいろいろな感覚で帰る方向を見つけていると言われています。
何と、1,000km近くの距離を1日で帰ってくる鳩もいます!
鳩の帰巣本能の秘密はいろいろと研究されてきましたが、実際のところ何故いつでもどこでも自分の巣に帰ってこられるのか詳しくは解明されていません。
鳩の利用方法
この鳩の帰巣本能は古く人々に利用され、「伝書鳩」「通信鳩」が有名です。
もともと岩場に住んでいたカワラバトを家畜化し、人間の手で道具として改良してきたのですから、人間の文明とは切っても切れない関係ですね。
旧約聖書の「ノアの方舟」では、洪水後に鳩を放すとオリーブの枝をくわえて戻ってきたという話もありますが、紀元前の昔から鳩は通信手段として海上と陸との連絡などに利用されてきました。
もちろん人の指示する自由な場所に行き来することができるのではなく、自分の巣まで確実に帰る習性を利用しているため、通信は片道となります。(往復用に訓練された伝書鳩も存在しますが、特別な場合です。)
レーダーなど無い時代に海で航海中に遭難してしまったような場合には、鳩を放せばやって来た陸地の方向が判ります。
電話の無い時代に遠く離れた場所での情報をいち早く伝えるためには、鳩通信が大いに役立ったのです。
鳩の軍事利用
現代「平和の象徴」としての鳩も人類の歴史では、戦争や紛争などの争いごとに深く関わってきました。
「軍用鳩」としての利用です。
中世ヨーロッパ時代からは特に鳩通信が盛んになり、伝書鳩が軍の伝令として使われてきた記録が多数残っています。
19世紀頃のヨーロッパでは、国家戦略として優秀な通信鳩を育成する法律やシステムをつくり「軍用鳩」としての鳩通信が発展しました。
通信技術が発達した20世紀においても「軍用鳩」の利用は重要視され、鳩に小型カメラをつけ軍事的な重要拠点を上空から撮影するといった「スパイ鳩」なるものも出現しました。鳩部隊に対する敵の毒ガス攻撃から鳩を守るため、鳩にマスクをつける鳩マスクもありました。
戦場では、戦地の重要な情報や部隊が危機にさらされた時のSOS信号など、通信の命綱として何人もの命を救ったと言われています。
日本における鳩の軍事利用
日本でも明治維新以来欧米の進んだ技術や文化が入り込み、鳩通信も「軍用鳩」として着目されました。
当時は改良・訓練を繰り返されてきたヨーロッパの鳩に比べ、日本の鳩は耐久性・飛行能力ともに比べ物にならないほど劣っており、通信用鳩のほとんどをフランスなどから輸入していました。
第一次大戦を迎え、日本でも軍事的に鳩通信の研究が急ピッチで進み、東京中野の一帯は軍用鳩の研究・育成の拠点となっていたそうです。 関東大震災の時には通信手段の途絶えた東京で被害状況の伝令や緊急通信に鳩が大活躍したと記されています。
現代における鳩の活躍
こうした鳩通信も通信手段の発達と戦争のハイテク化とともにその重要性を失ってきましたが、最近では湾岸戦争時に通信手段が破壊された時の対策として軍用鳩通信部隊を用意していたと言われています。
このように鳩の帰巣本能を利用した鳩と人間の関わりは、人間の戦争の歴史との関わりに置き換えられると言っても過言ではないでしょう。
しかし、多くの伝書鳩が人間の尊い命を救ってきたのも事実で、新聞記者のスクープ記事を一秒でも早く運ぶ平和利用にも活躍しました。
今では鳩の帰巣本能を利用した人間との関係においては「鳩レース」にその形態を残すのみとなってしまいました。
軍事的に使われることなく、平和の象徴として存在感を高めてほしいものですね。
2015.12.08 鳩について